映画『背 se』公式サイト

あらすじ&解説

豊かな暮らしは、山里にあった。

自然を慈しみ、助け合いながら生きる、
東秩父村に暮らす若者たちの3年を追ったドキュメンタリー

都心から僅か60km、バスと電車で80分、標高600メートルの山々が連なる山間に、東秩父村がある。「埼玉県の消滅可能性都市No.1」に指定されたこの村に、都会暮らしをやめ移り住む若者たちが増え始めた。村出身の西沙耶香さんは、コンビニもないこの村から出たいと高校卒業後上京。だが、ふるさとを消滅させたくないと仕事をやめ村に戻ってきた。東京出身の高野晃一さんは、地域起こし協力隊に応募して採用された元銀行員。村の特産品であるノゴンボウに着目し村の特産品として開発を進め、地域に溶け込み移住を決意した。他にも和紙職人を目指す青年や芸大卒の女性、鬼太鼓座の若者たちも、村に住む戦前・戦後を生きた先輩たちと交流しながら生きる知恵を身につけていく。

ナレーションは「おしん」の小林綾子。監督・撮影・編集は「無音の叫び声」をはじめ「武蔵野 ~ 江戸の循環農業が息づく」「お百姓さんになりたい」など農業をテーマにドキュメンタリー映画を撮り続ける原村政樹。豊かさを求める社会の急激な変化の中で人間らしさを奪われた現代に、自然を慈しみ、助け合いながら生きる山里の暮らしの素晴らしさを描く。

戦後、長い年月をかけて育んできた山里の伝統的な生業や暮らしは急速に姿を消していった。今やその頃とは比べものにならないほど便利で、しかも沢山の物に溢れた「豊かな暮らし」を手に入れたことは疑うことができない。しかし、怒涛のごとく押し寄せる急激な変化の中で、激烈な競争に曝され、経済効率重視で人間らしさを奪われ、息苦しさを感じている人は少なくない。 そうした今だからこそ、自然を慈しみ、人と人の結びつきが強く、お互いにが助け合いながら生きる山里の暮らしを、山里に生きることを選んだ3人の若者を通して伝える。

東秩父村(埼玉県秩父郡)について

埼玉県西部に位置する県内唯一の村。人口2623人、1053世帯が暮らす(2022年3月現在)。総面積の8割が山林の山村。細川紙(手すき和紙)の産地として知られ、また村内の山々は、首都圏に暮らす人たちにとって手ごろなハイキングコースとなっている。

登場人物

村に戻ってきた女性:西沙耶香さん

東秩父村出身。10代の頃は、都会から見捨てられていたような「何もない村」にコンプレックスを感じていたという。しかし都心の大学で東京育ちの同級生から村の暮らしを羨ましがられ、さらに「埼玉県での消滅可能性都市No.1」に指定されたことに反発、ふるさとを消滅させたくない、ふるさとに輝きを取り戻したいと、25歳の時に入社した会社を1年で退職して村に戻り、ふるさとの魅力を伝える活動を始めた。とりわけ西さんの心に響いたことは、ゆったりとした時間の流れだった。何事にも焦らず、人と人の繋がりを大切にした生き方である。確かに都会とは比べものにならないほど不便な暮らしだが、なぜか心にゆとりがある。しかも老人たちは孤独ではない。いつも笑顔を絶やさない。そんな暮らしぶりに惹かれた西さんは、生涯、この村で生きる決心を固めた。

東京育ちの青年:高野晃一さん

3年前に東京から東秩父村に移住した。10代の頃から旅が好きで、特に農村に憧れを抱いていた。大学卒業後、都内の銀行に就職したが、希望した仕事には付けず、憂鬱な日々を送っていた。そこで心機一転、東秩父村の地域おこし協力隊に応募して採用された。東秩父村を選んだのは景観の素晴らしさと同時に、東京からも近く、村に暮らしながらも、必要があればすぐに東京へ出かけることができるからだ。山深い自然にありながらも、東秩父村は決して隔絶した山間僻地ではなかった。当時、高野さんは23歳、この若さで自分が必要とされていることにやりがいを感じた。成果が中々出ない中でも、高野さんは1年、2年と諦めずに取り組み続けた。そして3年間の地域おこし協力隊の任期を終え、村に定住して、伝統的な食文化を未来につなぐ仕事を始めた。

隣町から移り住んだ青年:市村太樹さん

和紙職人を目指している市村さんは、数年前から村の和紙工房で働いている。村の伝統の和紙作りが途絶えるのではないかと、4年前、後継者を募集、それを知った市村さんは研修生となった。隣の寄居町出身の市村さんの自宅まで車で20分だが、村で土地と畑付きの家賃2万円の広い家に住んでいる。市村さんの同級生が皆、東京で就職する中で、彼は「都会で効率重視の仕事をするより、地元から必要とされている仕事をしたい」と選んだ。和紙が出来るまで非常に手の込んだ根気のいる作業の連続だが、そこには山里の自然の恵みを活かす知恵と技が凝縮している。

スタッフ

監督・撮影・編集:原村政樹

1957年千葉県生まれ。上智大学卒業後、1988年、東南アジアの熱帯林破壊をテーマにした「開発と環境 ~ 緑と水と大地そして人間」(JICA企画)で監督デビュー。医療・看護・建築・伝統文化・国際協力などの短編映画・テレビ番組の制作を経て2004年「海女のリャンさん」(文化庁記録映画大賞・キネマ旬報ベストテン第一位)で長編記録映画の製作を開始。以後「いのち耕す人々」、「天に栄える村」、「無音の叫び声」(農業ジャーナリスト賞)、「武蔵野 ~ 江戸の循環農業が息づく」、「お百姓さんになりたい」、「タネは誰のもの」、「食の安全を守る人々」など、農業をテーマに作品を発表。

語り:小林綾子

(コメント)原村監督作品のナレーションを担当するのは、『武蔵野』『お百姓さんになりたい』に続いて3作目です。若者たちが山里で村の人たちと交流しながら、成長してゆく姿は、とても素敵で勇気や希望を与えてくれます。自信に満ちた良い顔になっていくのも頼もしいですね。
山里には過疎化や伝統文化の継承など抱える問題は沢山ありますが、地域を元気にしようと前向きに取り組んでいる若者たちに声援を送りたいと思います。この映画を多くの若い人たちに観ていただき、未来に繋げていけたらうれしいです。

コメント

『若者(青年)は荒野をめざす』という本があった。1960年代だ。呑気な時代だったのだと思う。荒野というのはどこで何を指すのか。いずれにしろリアリティがゼロだ。「若者は山里をめざす」、こちらはリアルにあふれている。若者が触れたものが明確に示される。触れたものへの感動が伝わってくる。太古の昔から、わたしたちはそうやって何かと出会ってきたのだ。

― 村上 龍(作家)

石油文明に終わりを告げるべき時代の今、50年前、私自身電気もガスも水道もないアフリカから学び、そして琵琶湖流域での地域環境と共同体に根ざした生活環境主義を唱えてきました。かつては「時代遅れのアナクロニズム」といわれていましたが、今こそ「近い水」「近いエネルギー」「近い食」そして「近い人」の価値を発見した「山里をめざす若者」に希望を託し応援したいです。

― 嘉田由 紀子(環境社会学者/参議院議員)

ここでは、「若者は山里をめざす」ことに関して、今まで、語られることが多くなかった「なぜ」が描かれている。本作の大きな価値と新しい感動がここにある。それは、むらの人を描き続ける原村監督だから出来るものであろう。そのため、本作を見る、少なくない若者は、山里に対して心を動かすのではないだろうか。

― 小田切 徳美(明治大学農学部教授/農村政策論・地域再生論)

天からの授かりものに富んだ山里。かつて人はその恵みに欲し、分別ある知恵を働かせて暮らしていたが、欲望にまかせて人がつくり出す財貨に惹き寄せられて都市へと移り住むようになった。しかし、今、その都市生活に心身疲弊した若者が、自然消滅に直面する山里の恵みと知恵に出会い魅せられて、村の知恵者たちと一緒に宝物を再発見し、新たな息吹を吹き込んでいる。天の恵みと人の知恵と技とが織りなす、村と人間の再生を描く希望のドラマである。

― 原子 栄一郎(東京学芸大学 環境教育研究センター 教授)

<共同体こそ未来の光>
国連「家族農業10年」は持続可能な開発目標(SDGs)達成するため、自然と調和した有機農法(アグロエコロジー/農業生態学)が地球環境を守る担い手と推奨した。
かつてサンマ水揚げ日本一の銚子漁港で0(ゼロ)だった衝撃は、気候危機が目前にある警鐘に他ならない。小規模な漁業、農業、林業、畜産があるべき姿に注力する時代になった。
そこで『若者は山里をめざす』は古里へI&Uターンする若者たちが寄り合い知恵を出し合って交流する共同体意識こそ唯一の未来の光だ。

― 四方繁夫(映像文化批評家)

あらゆるものが揃っていて
便利で豊かなはずの都会に暮らしながら、
常に正体のわからない何かに追われる、
時々、そんな不安感に包まれることがある。
 
豊かさとは?
生きるために本当に必要なものとは何だろう?
 
この映画にはそのヒントがつまっている。
 
余計なものを脱ぎ捨てて、
決して若くはない私も、「さあ山里をめざそう!」
そんな気分にさせられた。

― 金聖雄(映画監督)

「若者が山里をめざす」のは懐古主義ではなく、都会での暮らしや働き方がもはや古びれていることの現れのように感じる。私たちが生きる社会は、若者にとって実りある場所になっているだろうか。特別ではない普通の若者が優しく励まされ、そっと背中を押される、そんな場所に山里はなり得ると思う。山里で新しいことにチャレンジする、自分と同世代の若者たちの姿を見て勇気が湧いてきた。

― 小坂誠(第七藝術劇場支配人)

故郷の衰退。都会を目指した若者たちにとって、嘆かわしい現実だ。戻りたくても戻る勇気と覚悟がない。しかし、このコロナ禍で一極集中が多少なりとも崩れだした。地域の宝を再発見し、若者の手で再生する。「おらの田舎には、他に無いものがある」太古から受け継いだ田舎の自慢は、滅びる事はない。映画「若者は山里をめざす」は故郷再生の希望である。

― 安孫子亘(映画監督)

生産性、即時性、効率性――。嫌な言葉である。しかし現代社会は「より多く、より速く」を求め、我々を急き立てる。この映画の中の若者たちは、そんな社会に疑問を持ち、山里をめざした。東秩父の山里で先達から伝統や知恵を受け継ごうとする姿に、わが身を振り返る。消費者運動の中で経済最優先の風潮に抗っているが、そこから抜け出せないのには何が足りないのかと――。観終わった後の深い余韻から抜け出せないでいる。

― 纐纈美千世(日本消費者連盟事務局長)

本作はシナプスだ。知っているような、懐かしいような、近くて遠い山里へのシナプスだ。居場所としての山里にたどり着いた若者、その暮らしに伴走しながら丁寧に描いている本作は穏やかな心持ちにさせてくれる。同時にほろ苦さも。私はなぜ山里的なモノを捨て去ってきたのか。かつての若者をも山里へ繋いでくれる優しいシナプスだ。

― 大宮浩一(映画監督)

若者たちを応援する村のひとたちのまなざしが優しい。
東秩父特産のノゴンボウ、竹の縄、こうぞを漉いた和紙。里山の恵みをいただくために、ひたすら手を動かし、工夫を凝らす。村はこうしたひとたちの営みによって脈々と続いてきたのだ。滔々と流れる時間。丁寧に生きることの尊さを教えられる。農を見つめてきた原村監督ならではの静謐な作品。

― 永田浩三(ジャーナリスト・武蔵大学教授)

若者の生き生きとした姿が眩しい。
多くの人々は、このまま都会の生活を続けていたら自分は雑巾のように使い捨てられる、都会を離れて土と密着した生産に携わりたい、そう願いつつも現状を変えることができないでいる。しかし、未来の時間をたっぷり持つ若者は苦労をものともせず、米を作り、野菜を育て、果物を実らせる生活に飛び込み、山里に息づく伝統を引き継いでいる。そんな生き生きとした姿が眩しい。未来を拓く若者たちにエールを送ろうではないか!

― 池内了(宇宙物理学者)

山里の風景が実に美しい。東秩父の江戸時代からの暮らしを錦絵、写真などで紹介し、現在若者たちがそれに挑んでいる姿が実にほほえましく、私たちの心を和ませてくれる。
農業、林業の従事者は70歳以上の高齢者ばかりで、いずれ消えていくから輸入に頼らざるを得ないということは間違いであることがよくわかる。EUでは農林業で働く人の収入は環境を保全してくれているとして8割は国からの所得補償である。以前私も行ったスイスの山奥では110%だった。保障なしでは所得はマイナスになる。 

― 山田正彦(元農水大臣・弁護士)

村の自然は、村人たちの様子をいつもみている。新しい人が移住してくると、そのまなざしは興味深げだ。そして自然がここで暮らすようにと後押しした人だけが、村に住むことができる。東秩父村にも近い
私の村、群馬県上野村の古老たちは、そんなふうに言う。それが真実かどうかは知らない。
だが、こんな物語とともにある世界に、いま若者たちは惹きつけられている。                      

― 内山節(哲学者)

いま山里をめざす若者たちは幸いだ。外からのエネルギーや食糧が途絶えても生きぬくことのできる人生の先輩たちに囲まれ、惜しみなく教えを受けられる。こんな幸福な形で新たな人生をスタートできるのは先輩たちが健在の「今」しかないだろう。よちよち歩きでも、数年をかけ自らの足で歩く入り口に立つ。
山里への入り方は多様であっていいのだと思える映画だ。

― 柴田昌平(映画監督)

私のゼミでは、毎年、長野県や新潟県の農山村を訪れ調査実習をしています。出演者の高野晃一さんも在学中に参加してくれました。この映画では、地域の宝さがしや、地域住民と外から来た若者の協働、若者による新規事業の立ち上げなど、多くの農山村で試みられていることが、実に丁寧に記録されて
います。農山村の実態を知りたい方や地域づくりに興味がある方にぜひ観ていただきたいです。

― 高橋健太郎(駒澤大学 文学部 地理学科教授)

これは、「消滅可能」を宣告された山村の、再生(リジェネレーション)への道を照らし出す希望の映画だ。20代半ばで故郷の村に帰った主人公のさやかさんは、豊かな自然と頼もしい老人たちに囲まれて深い安心感を覚える。望ましい変化はたしかに必要だ。でも、「その中に変わらなくていい部分があるって思えただけで生きやすくなった」、と。「村」は生き延びていた。そして、そこに集まってくる若者たちを得て、蘇りつつある。

― 辻信一(アクティビスト・文化人類学者)

「古い家のない町は思い出のない人と同じだ」
日本人画家・東山魁夷の残した言葉です。
昭和の文化が見直されている昨今都会から移住し、
自然を愛し地方に残された古民家を再生・活用する若者が増えています。
都会では必死にしなきゃならいSDGs=サステナブル=持続可能が
地方では日々の生活で当たり前におこなわれている『若者は山里をめざす』
変わらないことの素晴らしさ
当たり前の「ひととして大切なコト」を気づかせてくれます。

― 井上幸一(一般社団法人全国古民家再生協会創設者)

劇場情報

都道府県 上映会場 電話番号 公開日 備考
東京都 新宿K’s cinema 03-3352-2471 2023年1月14日 1/14(土)〜20(金)連日上映後トーク予定
東京都 青梅シネマネコ 0428-84-2636 2023年2月3日
埼玉県 川越スカラ座 049-223-0733 2023年1月21日 1/21,28上映終了後にトークショー予定
神奈川県 横浜シネマリン 045-341-3180 2023年2月25日
宮城県 仙台チネ・ラヴィータ 022-299-5555 2023年2月10日
愛知県 名古屋シネマテーク 052-733-3959 2023年1月28日
大阪府 第七藝術劇場 06-6302-2073 近日公開
兵庫県 元町映画館 078-366-2636 近日公開